抗体全体のかたちと機能の鍵となるヒンジ領域

-免疫反応をピンポイントで制御する抗体医薬の設計に期待-

薬学研究院
カアベイロ ホセ 教授

ポイント

・IgG1抗体のヒンジ領域を改変すると抗体が半分に分かれる現象を発見。
・核磁気共鳴法などによる原子レベルでの構造解析で、ヒンジ構造の変化が抗体全体の構造と機能に影響することを解明。
・受容体FcγRIにのみ結合する特性を利用した次世代抗体医薬の設計に期待。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 物質理工学院 材料系の小関悠希大学院生(博士後期課程1年)と同 総合研究院 フロンティア材料研究所の谷中冴子准教授、九州大学 大学院薬学研究院のカアベイロ・ホセ教授、大阪大学 大学院工学研究科の内山進教授、山口祐希助教、自然科学研究機構の加藤晃一教授、村田和義特任教授、名古屋大学 大学院理学研究科/自然科学研究機構 生命創成探究センターの内橋貴之教授らの研究チームは、免疫を担う重要なタンパク質であるIgG1抗体(用語1)において、ヒンジ領域(用語2)が、抗体の柔軟性を生み出すだけでなく、機能制御に深く関わる重要な構造であることを明らかにしました。

ウイルスや細菌を認識し排除する役割を持つ抗体は一般的に「Y字型」をしており、Y字型の腕と胴体はヒンジ領域でつながっています。今回の研究では、IgG1抗体のヒンジ領域に存在するプロリン230(Pro230、用語3)のアミノ酸残基を1個削除したところ、抗体が「半分の抗体(Half-IgG1、用語4)」に分かれる現象を確認しました。この結果は、ヒンジ領域が単なる「つなぎ目」ではなく、抗体全体の構造を形づくる要であることを示しています。さらに、このHalf-IgG1は免疫細胞に存在するFcγRI(用語5)という高親和性受容体には結合し、免疫応答を引き起こす一方、他のFcγ受容体には結合できないことが判明しました。この結果は、ヒンジ領域は抗体の柔軟性を与えるだけでなく、IgG全体の構造と機能を決定する鍵となっていることを示しており、従来の理解を書き換えるものです。

今回発見された「半分の抗体」の特性を応用することで、免疫反応をピンポイントで制御する新しい抗体医薬の開発につながる可能性があります。

本成果は、1月29日付(現地時間)の「Journal of Medicinal Chemistry」誌に掲載されました。

用語解説

(1)IgG1抗体:免疫を担うタンパク質の一種で、血液中に多く存在する抗体クラス。ウイルスや細菌を認識し、排除する役割を持つ。医薬品としても広く利用される。

(2)ヒンジ領域:抗体のY字型構造において、腕(Fab)と胴体(Fc)をつなぐ柔軟な部分。抗体の動きを調整し、抗原認識と免疫応答の両方に関わる。

(3)プロリン230(Pro230):ヒンジ領域に存在するアミノ酸残基の一つ。今回の研究で、この残基を削除すると抗体の構造が大きく変化することが判明した。

(4)Half-IgG1:通常のIgG1抗体は2本の重鎖が結合した構造を持つが、ヒンジ領域の変化により片方の重鎖だけで存在する「半分の抗体」を指す。

(5)FcγRI:免疫細胞に存在する高親和性の受容体で、抗体のFc部分と結合する。結合により免疫応答が活性化される。Fcγ受容体の中で最も強く抗体と結合する性質を持つ。

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薬学研究院 カアベイロ・ホセ 教授(副理事)

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