網膜色素変性の進行にかかわる免疫細胞として、末梢血の炎症性単球を発見!

~炎症性単球をターゲットとした新しい治療薬の開発へ~

ポイント

・網膜色素変性の進行には「神経炎症」とよばれる網膜への免疫反応が関与しますが、どの免疫細胞が悪玉として働くのかは不明でした。
・本研究で、もともと網膜に存在するミクログリア*1が網膜保護的に働くのに対して、末梢血由来の単球/マクロファージ*2が網膜色素変性を進行させることがわかりました。
・炎症性単球をターゲットとしたナノ粒子*3薬によって、モデル動物での治療効果が得られており、現在臨床応用に向けた治療開発が進められています。

概要

 網膜色素変性(Retinitis Pigmentosa: RP)は遺伝性の難病ですが、その進行には遺伝子変異だけではなく「神経炎症」とよばれる免疫反応が大きく関与します。神経炎症には多面性があり、網膜変性に正にも負にも作用しますが、どの免疫細胞がRPを進行させるエフェクターかは分かっていませんでした。
 九州大学大学院医学研究院眼科学の園田康平教授、村上祐介講師らの研究グループは、RPにおける神経炎症の役割について解析を進め、もともと網膜に存在するミクログリアが網膜保護的に働くのに対して、末梢血の炎症性単球と単球由来マクロファージが、RPを進行させることを突き止めました。さらに炎症性単球を強力に抑制する薬剤として、スタチンを封入したナノ粒子薬を静脈内投与したところ、RPモデル動物の網膜変性が大きく抑制されました。

これまでは網膜局所の神経炎症がフォーカスされてきましたが、今回の研究から全身的な免疫反応がRPに関与することが明らかとなりました。本成果をもとに、炎症性単球をターゲットとした新しいコンセプトのRP治療薬の開発が、産学官連携で進められています。
 本研究成果は、2022年3月2日に米国科学雑誌「PNAS Nexus」創刊号に掲載されました。

用語解説

*1. ミクログリア
脳や網膜などの中枢神経組織に常在する免疫細胞。胎生期に卵黄嚢から流入し、中枢神経に生着する。定常状態では樹状突起を伸ばすが、活性化するとアメーバ状に変化する。中枢神経内を移動することができ、老廃物の処理やシナプス形成、神経損傷/再生など、中枢神経の健康と病気に大きな役割をもつ。

*2. 単球とマクロファージ
単球:末梢血に存在する貪食能の高い免疫細胞。骨髄の前駆細胞から産生され、血液中を循環する。マクロファージ:単球が血管壁を越えて組織に侵入すると、マクロファージに分化する。中枢神経は血管のバリアが強固であり、定常状態では単球が侵入できないが、病的状態では単球の浸潤が起こる。マクロファージも樹状からアメーバ型の形状をとり、外見だけではミクログリアと区別することが難しいが、由来の異なる免疫細胞としてそれぞれの特性・特徴をもつことが明らかになってきている。

*3.ナノ粒子
ターゲットとする細胞に対して、薬剤を効率的に送達するためのドラッグデリバリーシステム。ナノからサブミクロンサイズのリポソームに化合物や核酸薬を封入することで、従来の薬剤よりも有効性を高めたり、副作用を軽減する。

詳細

詳細につきましては、こちらをご参照ください。

⼈社系協働研究・教育コモンズ オムニバスセッション「知の形成史2」

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