慢性便秘症に新たな突破口

~排便をつかさどる脳中枢の仕組みを世界で初めて解明~

九州大学病院
田中 義将 助教

ポイント

・慢性便秘症※1は近年、生命予後にも影響することから注目されている
・最先端の神経科学的手法を用いて排便をつかさどる脳中枢の仕組みを世界で初めて解明した
・今後、慢性便秘症の治療や予防に新たな治療戦略が提供されることが期待される

概要

慢性便秘症は日常生活の質を著しく低下させるだけでなく、長期生命予後にも影響を及ぼすことが知られています。排便には中枢神経系が関与していることは分かっていましたが、脳のどの領域がどのように排便を制御しているのかは未解明でした。

九州大学大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、同大学病院の田中義将助教、佛坂孝太大学院生(現:福岡東医療センター)らの研究グループは、自然科学研究機構生理学研究所の箕越靖彦教授(現:椙山女学園大学 生活科学部 管理栄養学科教授)らとの共同研究により、マウスを用いた最先端のオプトジェネティクス※2などの神経科学的手法を用いて、排便を制御する脳の中枢が主に橋※3の「バリントン核(Barrington’s nucleus)※4」に存在することを初めて実証しました。さらに、同核内の2種類の神経細胞が、それぞれ異なるタイプの排便反応(即時型と遅延型)を担うことを明らかにしました。また、視床下部室傍核や腹外側部水道周囲灰白質といった脳領域が上流からこれらの神経を調節していることも解明しました。

本研究により明らかとなった、中枢神経系による排便制御の具体的な仕組みは、慢性便秘症や排便障害の病態理解を大きく前進させ、将来的には新規治療法の開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は米国の医学雑誌「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に2025年10月10日(金)午後10時(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

排便を制御する脳の中枢を明らかにし、2種類の神経群が異なる役割で排便を引き起こすことを明らかにしました。今回の研究成果により慢性便秘症の病態理解を進めていくとともに、新しい便秘治療の開発を目指します。 (田中義将)

用語解説

(※1) 慢性便秘症(大腸通過遅延型と便排出障害型)
慢性便秘症の分類。大腸通過遅延型は大腸が便を送る動きが悪いため、排便の回数や量が減少する便秘である。一方、便排出障害型は直腸まで便が下りてきているのに、肛門の外に押し出す力が弱くなりスムーズな排便ができない便秘である。今回の研究は便排出障害型の原因の解明につながることが期待される。

(※2) オプトジェネティクス
光によって活性化されるタンパク分子を遺伝学的手法を用いて特定の細胞に発現させ、その機能を光で操作する技術である。光(opto)と遺伝学(genetics)を組み合わせたことから光遺伝学と呼ばれる。光遺伝学の開発により、特定の神経の活動を高い時間精度で正確に操作することが初めて可能となった。
オプトジェネティクスでは、光感受性チャネルを細胞に発現させることが前提になるため、本研究における実験では、ウイルスを接種することで発現させている。これまでに様々な光感受性チャネルが開発されており、今回用いたチャネルロドプシン2(ChR2)という光感受性チャネルを発現する神経細胞であれば、光照射によってナトリウムイオンが細胞に流入し、膜電位が脱分極し、これが引き金となって軸索起始部にある電位作動性のナトリウムチャネルが開き、活動電位が発生して神経興奮を起こす。なお、用いる光感受性チャネルを変えれば神経抑制を起こすことも可能である(本論文ではstGtACR2を使用)。

(※3) 橋 
脳の部位の一つ。脳幹という生命維持に関与する意識・呼吸・循環などを調節する領域に存在する。

(※4) バリントン核と青斑核
バリントン核は脳幹の橋にある神経核で、主に排尿の調節に関わっていて排尿中枢として以前より知られていた。青斑核はバリントン核の近傍に存在し、同じく脳幹の橋にある神経核である。覚醒レベルの制御、選択的注意、ストレス反応、痛みの抑制、そして意志力や情動、記憶の形成・消去など、幅広い認知機能と生理機能に深く関与することが知られている。両者は排便中枢である可能性についても知られていたが実験手法の問題から詳細な場所や役割は不明であった。

詳細

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お問い合わせ先

九州大学病院 田中義将 助教

医学研究院 小川佳宏 主幹教授

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