――特定の森林の機能だけでなく、多様な機能を重視した政策を――
農学研究院
太田 徹志 准教授
ポイント
・日本の森林政策に様々な立場で関わる専門家の要望や期待(ニーズ)を精査した結果、立場や専門性に関わらず、森林の水土保全機能がもっとも重視されていることがわかりました。
・本成果は、日本で2024年に導入された森林環境税をはじめとした、森林管理に関する国内外の政策・取り組みを実施する際の重要な科学的根拠となります。
・近年、森林が持つ機能のなかでも二酸化炭素の大気中からの隔離と炭素貯留が大きく注目されていますが、その他の多様な機能も軽視できません。資金をはじめとする森林管理のリソース配分を考えるとき、国民がより多くの恵みを享受できる仕組みの熟考が必要ということが改めて示されました。
概要
東京大学先端科学技術研究センターの森章教授、鈴木紅葉特任研究員、栃木香帆子特任研究員、大学院農学生命科学研究科の曽我昌史准教授、九州大学大学院農学研究院の太田徹志准教授、溝上展也教授らによる研究グループは、政策立案者、実務者、科学者などの様々な立場で日本の森林に関わる個人を対象としたアンケート調査を実施し、立場や専門性に関わらず、森林の有する機能のなかで「水土保全機能」(注1) がもっとも重視されることを明らかにしました(図1)。
近年、地球温暖化の緩和策として注目されているのは、森林が大気中から温室効果ガスである二酸化炭素を吸収し、炭素を貯留する機能です。そのために世界的には、植林による森林面積の拡大を目指すプログラムが多く実施されています。一方で、森林の有する多面的な公益的機能は、よく知られている木材生産(注2) や地球温暖化防止だけでなく、土壌の保全や水源の涵養、人間の健康や教育・文化に対する貢献など非常に多岐に渡ります。
本成果は、単一の森林の機能(とくに地球温暖化緩和(注3) )の発揮に偏りすぎた政策へ警鐘を鳴らすと同時に、森林のもつ多様な価値を認識する重要性を強調しています。
用語解説
(注1)水土保全
本研究では、森林がもつ水源涵養機能や土壌保全機能を取り上げました。
(注2)木材生産
本研究では、木材の生産過程に関する技術やその他の多面的機能との調和を取り上げました。
(注3)地球温暖化緩和
本研究では、森林による気候調整や木材による素材・燃料の代替を通じた温暖化緩和を取り上げました。
詳細
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