カニのナノ繊維の構造制御により、ヒト免疫細胞の直接活性化に成功

〜安心・安全な天然多糖のナノファイバー化技術による医薬素材の新展開〜

農学研究院
北岡 卓也 教授

ポイント

・ワクチンや免疫療法の効果は個人差が大きく、免疫賦活剤(以下、アジュバント)の併用が必要不可欠
・キチンナノファイバー(Chitin nanofiber: CtNF, ※1)が、ヒトの自然免疫受容体を介して、免疫細胞を直接活性化できることを発見
・天然由来ナノ多糖の構造制御により、アジュバントの効き目を高めるモダリティとして期待

概要

 自然免疫を活性化するアジュバントは、ワクチンなどの効き目を高める効果があり、ヒトの個人差に起因する影響を緩和し、ワクチンに含まれる抗原の量や接種回数を減らせたり、免疫力の弱い新生児や高齢者への投薬効果を改善したりすることが期待されます。しかし、我が国で承認されているアジュバントは数少なく、アルミニウム塩やオイルエマルションなどにとどまっています。
今世紀の初頭、動物の細胞表面にあるToll様受容体(Toll-like receptor: TLR)が、種々の病原体を感知して自然免疫を司ることが見出され、近年、その仕組みを活かしたTLR作動型のアジュバントに注目が集まっており、安心・安全なTLR作動薬の開発に期待が高まっています。
国立大学法人九州大学大学院生物資源環境科学府の畑瀬莉沙氏(修士課程2年)、大学院農学研究院の李淇特任助教、畠山真由美助教および北岡卓也教授らの研究グループは、天然多糖のカニ由来のキチンナノファイバーを基材として、TLR2発現型HEK293細胞やヒト単球を培養したところ、多糖ナノ固体がTLR2受容体を直接活性化できる興味深い現象を発見しました。また、キチンナノファイバー表面を特異的に脱アセチル化処理することで、表面糖鎖構造の異なる多糖基材を作製し、基材表面のN-アセチルグルコサミン量に依存的なヒト免疫反応の応答制御機構も見出しました。
今回の発見は、安心・安全な天然多糖と免疫細胞との相互作用をTLR作動機序とする、アジュバント開発に新たな一石を投じるものであり、新規医薬モダリティとしての展開に期待が持たれます。

本研究成果はエルゼビア社の学術雑誌「International Journal of Biological Macromolecules」に2024年12月1日(日)に掲載されました。

研究者からひとこと

本研究は、美味しいカニの食品廃棄物(甲羅)からとれるキチンナノファイバーが、ヒトの自然免疫系の受容体タンパク質を直接活性化できることを発見したものです。ありふれた天然多糖が、近い将来には医薬品として、私たちの健康やOne Healthに役立つかもしれないと、今後の研究展開にワクワクしています。(修士2年 畑瀬莉沙)

用語解説

(※1) キチンナノファイバー
カニやエビなどの甲殻類の主要な多糖類のキチンを、ナノ(1ナノは10億分の1)メートルサイズまで微細化した天然ナノ素材。N-アセチルグルコサミンからなるホモポリマー。

お問い合わせ先

農学研究院 北岡 卓也 教授

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