~ 数週間も海中をさまよう波の亡霊 ~
ポイント
・日本海の対馬前線海域において、台風によって励起された波が減衰することなく1週間以上も海の中を彷徨い続けている事実を発見し、詳しい物理メカニズムを明らかにした。
・鉛直1次元的な係留系のデータと水平2次元的な海上風速のデータを組み合わせることで3次元的な視点で海洋内部の波の挙動を明らかにした点は斬新である。
・海洋の生物活動や漁業資源、海上インフラ等に対する台風の影響に関して、既存の概念を更新し、より適切な台風対策への貢献が期待される。
概要
東京大学大気海洋研究所と九州大学応用力学研究所の研究チームは、日本海の洋上を通過する台風によって発生する海洋内部を伝搬する波(内部波)に関する全深度での観測を成功させた。これまでの研究では、海洋内部への台風の影響は、主に台風が通過した海域を中心に、台風の通過直後の数日間にのみその影響が現れると考えられてきた。しかしながら、今回の観測から、台風が通過して1週間以上が経過しても内部波のエネルギーは減衰せず、むしろ中・深層において最大値を示すほど活発である事実が明らかになった。この結果を受けて、漁業資源や海洋インフラなどへの内部波の影響に関して、既存の概念を更新し、より長い時間スケールで対策を講じる必要性が示唆される。
今回の観測は、波がどのような経路で、どのようなスピードで海中を伝搬するのかを明らかにするため、対馬暖流(注1)の勢力が顕著に現れる佐渡の沖合に係留観測(注2)ステーションを設定し、1年間を通して波の観測を行なった。観測では、海底から垂直に立ち上げたロープに沿う形で流速計を数多く配置した。それぞれの装置から得られた流速のデータを繋ぎ合わせることで、台風によって励起された波のエネルギーを海面から深層までシームレスに追跡する調査を行った。係留系での観測に加えて、台風の通過によって日本海の各海域に分配された運動エネルギーをマップ化し、それぞれの波の伝搬速度や波長などの知見を組み合わせることで、係留点で観測された波の発生源を特定し、また、対馬前線との関係性における波の増幅機構などについて明らかにした。このような研究のアプローチ、および、得られた成果は極めて斬新と言える。
用語解説
(注1)対馬暖流
日本海の西端に位置する対馬海峡から流入する暖流。黒潮の海水を多く含む。
(注2)係留観測
観測計器を海中に係留することで、時間的な海水の変化を記録する観測手法。
詳細
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