自然法則に現れる「自由に選べる数」の由来に迫る

量子重力における自由パラメータの謎に新たな手掛かり

高等研究院
楠亀裕哉 准教授

ポイント

・自然現象を記述する理論には、値を変えても同じ性質を保つ「自由に調整できる“つまみ”」のような数が現れることがあります。その起源を特定することは、量子重力(※1)の理解にも関わる重要な問題でした。
・研究グループは、この“つまみ”の値が少しだけ異なる2つの理論をつなぐ「界面」に注目しました。この界面を少し動かしたときの応答から、“つまみ”を操作する役割をもつ演算子を構成し、「自由に選べる数」の起源を特定しました。
・本成果は、「量子重力には外から自由に選べる連続パラメータが存在しない」という考え方を支え、アインシュタイン以来の根本的な問いの理解につながる重要な手がかりになると期待されます。

概要

自然界を記述する理論には、拡大・縮小しても同じ性質が保たれるものがあり、これを「共形場理論(※2)」と呼びます。さらに、一部の共形場理論では、ある種のパラメータを調整することで、共形対称性(※3)を保ったまま理論を少しずつ変化させることができます。このとき、理論を連続的に変えるパラメータはどこからやって来るのか、という根本的な問いが生じます。
 本研究では、連続パラメータを動かす役割を担う局所演算子を理論の中で構成することで、連続パラメータの起源を明らかにしました。
 九州大学高等研究院の楠亀裕哉准教授(理化学研究所(理研)数理創造研究センター客員研究員を兼務)、欧州原子核研究機構(CERN)の小松尚太助教、トリノ大学のMarco Meineri 助教、カリフォルニア工科大学の大栗博司教授(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授と理研開拓研究所客員主幹研究員を兼務)からなる国際共同研究グループは、2つの共形場理論を「界面」でつなぐ状況を解析しました。その結果、界面をわずかに動かしたときの応答を適切に取り出すと、2つの理論の違いを生む局所的な演算子が得られることを示し、それを具体的に構成する方法を与えました。
 今回の成果は、「量子重力には外から自由に選べる連続パラメータが存在しない」という予想を裏付けるものとなっており、量子重力の根本問題の理解につながると期待されます。
 本研究成果は、米国の学術誌「Physical Review Letters」に2026年6月16日(火)(現地時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

自然法則には、外から自由に選べる“つまみ”のような数が本当にあるのでしょうか。今回私たちは、2つの理論をつなぐ「境目」に注目しました。その境目の応答を調べることで、理論を変える担い手が理論の中から現れることを示しました。これは、量子重力における「自由パラメータ」の問題を考えるうえでも、重要な手がかりになると考えています。(楠亀裕哉)

用語解説

※1:量子重力(Quantum Gravity)
量子論と一般相対性理論を統一的に扱うことを目指す理論。量子重力では、理論を定めるために外から自由に選ぶ連続的な数(自由パラメータ)は存在せず、見かけのパラメータは力学的な場の値から説明されるべきだという考え方がある。本研究では、この考え方をAdS/CFT対応を用いて共形場理論側から検証している。

※2:共形場理論(Conformal Field Theory, CFT)
拡大・縮小を含む、角度を保つ変換(共形変換)のもとで不変な場の量子論。くりこみ群の固定点や臨界現象、弦理論、ホログラフィー原理などで中心的な役割を果たす。

※3:共形対称性(Conformal symmetry)
拡大・縮小を含む、角度を保つ変換(共形変換)に対して物理法則が変わらないという性質。

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