先天性読み書き障害を脳の機能と構造から分類・再現する新手法を提案

〜発達性ディスレクシアへの個別最適化した教育支援・治療の実現に期待〜

人文科学研究院
太田 真理 准教授

ポイント

・先天性の読み書き障害である発達性ディスレクシア(※1)は世界人口の5-10%が該当し、複数のサブタイプが存在するが、各サブタイプの原因となる脳の機能と構造は解明されていない。
・MRIで測定した脳の機能と構造から発達性ディスレクシアのサブタイプをデータ駆動で分類し、健常者を対象に、サブタイプに特徴的な脳活動を「経頭蓋時間干渉刺激(※2)」で安全に生じさせることで、発達性ディスレクシアの原因を探る新手法を提案。
・本成果によって、教育現場や医療現場で発達性ディスレクシアの個別最適化された治療・支援が進み、患者の学習機会の確保と生活の質の向上につながることを期待。

概要

発達性ディスレクシアは、一般的な知的能力に問題がないにも関わらず文字の読み書きに重篤な困難をきたす先天性の障害です。世界人口の5〜10%程度が該当するため、原因の解明と支援は長年の重要な社会課題でした。また、発達性ディスレクシアは異なる障害を示すいくつかのサブタイプがあることが知られており、近年では、音韻の認識や瞬時命名速度の低下など複数の要因が絡む「多因子モデル」が注目され、多様な脳内メカニズムの関与が示唆されています。しかし従来の研究では、サブタイプの分類と脳の異常を直接結びつけられておらず、発達性ディスレクシアが脳のどのような異常が原因で起こるのかは未解明でした。さらに、文字や言語の処理は人間に特有の能力であるため、発達性ディスレクシアを動物モデルによって研究することは困難であり、人間を対象とした新たな研究モデルの構築が望まれていました。

九州大学大学院人文科学研究院の太田真理准教授、ダニエル・ギャラガー研究員、人文科学府修士課程2年の黄子安大学院生の研究グループは、①脳画像に基づいて発達性ディスレクシア患者をサブタイプに分類し、同時にサブタイプに特徴的な脳活動を特定する、②安全に脳活動を変化させることができる経頭蓋時間干渉刺激(tTIS)によって、健常者で発達性ディスレクシアのサブタイプに特徴的な脳活動を誘発することで、サブタイプ特有の読み障害を擬似的に発生させる、という研究手法(図1)を提案しました。この手法により健常者を対象に「ある脳領域の異常が特定のタイプの発達性ディスレクシアを引き起こすか」を確認できるようになります。

健常者を対象とした新たな研究モデルを提唱した本研究により、発達性ディスレクシアの個々のサブタイプに合わせた診断・介入法の開発が飛躍的に進むことが期待されます。さらに、将来的には一人一人に合わせた学習支援法や治療プログラムの実現につながる可能性があります。

本研究成果は国際誌「Frontiers in Human Neuroscience」に2025年10月10日に掲載されました。

研究者からひとこと

発達性ディスレクシアは最も患者数が多い先天性の言語障害の一つです。今回の研究により、脳の構造や機能に基づいて様々な症状を示す発達性ディスレクシアを分類し、その原因を解明する手法が提案できました。本研究の手法をさらに発展させることで、将来的に個別最適化した治療・教育の実現を目指していきます。(太田真理)

用語解説

(※1) 発達性ディスレクシア
生まれつきの脳の認知特性により、文字の読み書きに困難を示す先天性の言語疾患。知的能力の問題や努力不足ではなく、言語処理や文字と音の対応関係を処理する脳機能に偏りがあるために起きると考えられている。症状の適切な評価と個別の学習支援を通じて、学習の遅れ、自尊心の低下、進学や職業選択への制約などの二次的な影響が改善されるため、早期発見と個別最適化した支援が必要とされている。

(※2) 経頭蓋時間干渉刺激 (tTIS)
2組以上の電極から、周波数が異なる高周波の電流を流すことで生じる干渉(ビート)を利用する非侵襲的脳刺激法。例えば、2000 Hzと2010 Hzの高周波が干渉すると、周波数の差に対応する10 Hzのビートが生じる。神経細胞は2000 Hzなどの高周波には応答しないため、10 Hzのビートに対してのみ応答すると考えられる。脳内の電流分布シミュレーションに基づいて、適切な位置に電極を設置することで、従来の非侵襲的脳刺激法では刺激することが難しかった脳の深部を含む特定の脳領域を選択的に刺激することができる。

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人文科学研究院 太田真理 准教授

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