これまで分解しないとされていた市販の釣り糸が海洋で生分解することを発見

―ゴーストギア(漁業系プラスチックごみ)問題解決の決定打に―

ネガティブエミッションテクノロジー研究センター
高原 淳 学術研究員

ポイント

・これまで高分子分野や水産業分野で、海洋では分解しないと共通認識されていた市販のナイロン6とナイロン6,6の共重合体の釣り糸が、共重合体の比率がある範囲に入る場合には、代表的な海洋生分解性ポリマーのセルロースと同等レベルで生分解することを世界で初めて明らかにした。
・現在市販されているほとんどの釣り糸は生分解性でないため、切れた場合に水鳥やウミガメなどに絡まることによる生態系への悪影響や、マイクロプラスチック化することによる海洋汚染が世界的な問題になっている。
・今回の発見は、釣り糸による海洋汚染拡大の歯止めとなるのみならず、漁網などの漁業系プラスチックに展開することにより、ゴーストギア問題の包括的解決にも貢献できる。

概要

東京大学の伊藤耕三特別教授、安藤翔太特任助教、九州大学の高原淳学術研究員、一般財団法人化学物質評価研究機構の菊地貴子主管研究員、長岡技術科学大学の笠井大輔准教授、愛媛大学の日向博文教授らによる研究グループは、海洋では分解しないとこれまで共通認識されていた市販の釣り糸の中に、代表的な海洋生分解性ポリマーのセルロースと同等レベルで生分解する釣り糸が複数存在することを発見しました。具体的には、市販されているナイロン6とナイロン6,6の共重合体(注1)の釣り糸の中で、共重合体の比率がある範囲に入る市販の釣り糸が、海洋中で生分解性ポリマーの標準物質であるセルロースと同程度の生分解性を示すことを世界で初めて明らかにしました。これは、ナイロンを非生分解性ポリマーとして扱ってきた教科書の記述や、高分子分野・水産業分野の共通認識が間違っていることを示し、これまでの常識を完全に覆すものです。この発見を契機として生分解可能な釣り糸が世界中で盛んに利用されるだけでなく、漁網等の漁業系プラスチックの材料開発に展開が可能となることから、ゴーストギア問題(注2)の包括的解決が期待されます。

本研究成果は、2025年5月19日からの第74回高分子学会年次大会にて発表されます。

用語解説

(注1) 共重合体
2種類以上の異なる単量体(モノマー)が結合してできた高分子(ポリマー)のこと。1種類の単量体(モノマー)が結合してできた高分子(ポリマー)はホモポリマーと呼ばれている。

(注2) ゴーストギア問題
ゴーストギア問題とは、海に捨てられたり、失われたりした漁具(網、釣り糸、ロープ、カゴなど)が、環境や生態系に悪影響を及ぼす問題のこと。「ゴーストギア(Ghost Gear)」とは、「幽霊漁具」という意味で、人の管理を離れた漁具が海中を漂い続ける様子から名付けられた。
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4452.html

詳細

本研究の詳細はこちらをご参照ください。

お問合せ先

ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 高原 淳 学術研究員

シングルセル質量分析イメージングでがん細胞中の脂質の分布を可視化することに成功

新しい「核分裂」の発見! 99番元素アインスタイニウムが導く元素の世界

関連記事

  1. 海洋プラスチック汚染の進行を防ぐ流出プラスチック…

    応用力学研究所磯辺 篤彦 教授大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの実現…

  2. 2024年能登半島地震の海岸隆起によって“露出”…

    総合研究博物館加藤 萌 助教概要金沢大学国際基幹教育院GS教…

  3. 種の保存法指定種ハカタスジシマドジョウの飼育下で…

    知られざる雌雄の行動が明らかに九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程3…

  4. 【12/19開催】太平洋戦争を考える「マーシャル…

    ~ マーシャル諸島の記憶 ~ 太平洋戦争と核実験に翻弄された太平洋上…

  5. 【12/14開催】超域うみしらべシンポジウム 『…

    ~『砂浜の来し方行く末を糸島半島で考えるー砂浜の保全・再生・管理の最新動向』…

  6. ⾃然資本の増加が持続可能な社会に不可⽋

    ~ 包括的な成⻑を⽬指すロードマップ提案 ~ ポイント・気候変…

  7. 世界で初めて造礁サンゴの骨格から微細マイクロプラ…

    破砕したプラスチックごみが千年規模で蓄積する可能性応用力学研究所磯辺…

  8. 薩摩硫黄島における鉄チムニーマウンドを発見

    ―初期地球海底のモダンアナロジー―鹿児島県薩摩硫黄島の長浜湾では、湾…