角膜炎の形を「数式」で説明

-角膜ヘルペスの多様な病変の形を数理モデルで再現-

医学研究院 / 医学系学府博士課程2年
三浦 岳 教授 / 増永 真理

ポイント

・角膜に感染や炎症が起こる角膜ヘルペス(※1)は、病変の形の見た目をもとに診断されている
・その形が生じる理由を説明できる数理モデル(※2)の開発に成功した
・今後角膜ヘルペスのさらなる病態理解につながることが期待される

概要

角膜ヘルペスは、枝分かれした形や、先端が膨らんだ形、免疫抑制状態で見られる大きく広がった形など、特徴的な病変の見た目を示す角膜(※3)の感染症です。臨床現場では、こうした病変の形の違いを手がかりに診断が行われています。しかし、これらの病変の形がなぜ生じるのかについては、ウイルス感染の広がりと宿主の免疫反応の相互作用が関係していると考えられてきたものの、その仕組みを具体的に説明できる理論的な枠組みはこれまで示されていませんでした。

本研究では、感染と免疫の相互作用に着目した数理モデルを用いることで、角膜ヘルペスに見られる多様な病変の形を再現できることを示しました。

今回、九州大学大学院医学研究院系統解剖学分野の三浦岳教授、同大学院医学系学府博士課程2年の増永真理、同修士課程1年の島谷玲央、東京女子医科大学医学部眼科の飯田知弘客員教授および篠崎和美准教授らの研究グループは、ウイルスの感染拡大と免疫反応の影響を取り入れた数理モデルを構築しました。このモデルでは、パラメータの違いによって、枝状の病変、先端が丸く膨らんだ病変、さらには免疫抑制状態で見られる大きく広がった病変まで、角膜ヘルペスに特徴的な病変パターンを再現できることを示しました。さらに、先端が丸い膨らみを呈さない偽樹枝状角膜炎(※4)のパターンについても再現可能であることを示しました。これにより、これまで経験的に理解されてきた病変の見た目の違いを、理論的に説明する枠組みが提示されました。

本研究成果は、医師が見た目をもとに診断してきた角膜ヘルペスの病変の形に、理論的な背景を与えるものです。病変の広がり方と免疫状態の関係を整理して理解する手がかりとなり、今後の病態理解や関連する基礎研究・臨床研究の基盤として活用されることが期待されます。

本研究成果は、米国の学術雑誌『Bulletin of Mathematical Biology』に2026年2月25日(水)午前11時(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

角膜ヘルペスは、枝分かれしたり、先端が丸く膨らんだりと、見た目に特徴のある病気です。医師は病変の形を手がかりに診断を行いますが、なぜそのような形が生じるのかについては、十分に分かっていませんでした。角膜ヘルペスに限らず、病変の「形」は医療において重要な情報を含んでいます。形ができる仕組みを説明する数理モデルの開発が臨床医学の理解につながればと考えています。(増永 真理)

用語解説

(※1) 角膜ヘルペス
ヘルペスウイルスによって、角膜に感染や炎症が起こる病気です。枝分かれして先端が丸く膨らんだ形など、特徴的な病変の見た目を示すことが知られており、診断の手がかりとなります。

(※2) 数理モデル
生理的・物理的現象を数式で表したものです。現象の再現や予測、介入の効果検証などに活用されます。

(※3) 角膜
目の表面を覆う透明な組織で、光を取り込み、視力を保つために重要な役割を担っています。

(※4) 偽樹枝状角膜炎
角膜ヘルペスと似た枝分かれ状の病変を作りますが、角膜ヘルペスとは異なり、病変の先端が丸く膨らまないのが特徴の角膜炎です。水痘・帯状疱疹ウイルスの 感染など、さまざまな原因で生じます。

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医学研究院 三浦 岳 教授

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