日本の都道府県単位における医療機器の運用効率性の良し悪しを測る

〜CT・MRIの非効率運用がもたらす経済・環境影響〜

経済学研究院
加河 茂美 主幹教授

ポイント

・全国の都道府県を対象に、高額かつ高エネルギー消費型の画像診断機器(CT・MRI)の運用効率性を定量的に評価。
・運用効率性の改善によって実現可能なコスト削減量およびCO2排出削減量を推計。
・医療ツーリズムの促進や医療機器の共同利用など、既存設備の有効活用を通じた医療資源の効率的活用に資する政策が必要。

概要

日本では、高齢化に伴う医療需要の増加を背景に、高額かつ高エネルギー消費型の画像診断機器であるCT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)の設置台数が急増しており、人口あたりの保有台数は世界的にも突出しています。しかし、これらの機器は国際的な水準と比較して運用効率が低く、過剰な設備投資や非効率的な運用が医療機関の経営に負担を与えるとともに、環境面でも多大な影響を及ぼしている可能性があります。

九州大学大学院経済学府の牛島大悟大学院生(K2-SPRING・2025年度生)、経済学研究院の加河茂美主幹教授、中石知晃講師、広島経済大学の三苫春香助教から成る研究グループは、日本全国47都道府県におけるCTおよびMRIの横断的・縦断的な運用効率性を分析し、効率性指標に基づいて、装置運用の改善による潜在的な医療コストおよびCO₂排出削減量を推計しました。

分析の結果、2020年時点で8割以上の都道府県においてCT・MRIの両機器の運用効率性が低く、さらに2014年から2020年の7年間で全国平均の運用効率性が約5%低下していることが明らかになりました。また、全都道府県の約6割で効率性が悪化傾向を示していました。さらに、非効率な運用を最適化することにより、日本全体で年間約8,000億円のコスト削減、および年間約300万トンのCO₂排出削減(これは日本の旅客輸送部門の年間排出量に相当)を実現できる可能性が示されました。

本研究の成果は、新規設備の追加導入に依存するのではなく、医療ツーリズムの推進や機器の共同利用といった既存資源の有効活用を通じて、医療資源の効率的な運用を促進する政策的介入の必要性を示唆しています。

本研究は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2136)の支援を受けて実施されました。本研究成果は、2025年7月3日(木)にJournal of Environmental Management(2024年インパクトファクター:8.4)に公開されました。

本研究グループからひとこと

日本においては医療機器導入に対する法的規制が存在せず、機器の設置数が増加の一途をたどっています。一方で、少子高齢化の進展に伴い国民医療費の増加と社会保障費用の負担が深刻化しております。それに加えて、物価上昇などに起因する病院経営コストの増加が続く中、診療報酬改定は十分に追随しておらず、約7割の医療機関が経営赤字を余儀なくされています。このような状況下で、限られた医療資源を効率的に活用することは喫緊の課題です。さらに、脱炭素社会の実現を目指す中で、医療分野における環境負荷低減の観点からも、既存機器を含む医療資源の適切かつ効率的な活用が強く求められます。

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経済学研究院 加河茂美 主幹教授

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