制御性T細胞とは別経路による免疫抑制機序で,新たな免疫療法の確立に道
生体防御医学研究所
馬場 義裕 教授
ポイント
・自己免疫疾患や炎症性疾患を抑える制御性B細胞(※1)は新しい細胞治療として期待されているが、ヒトでは数が少なく、安定して増やすことが難しいという課題があった。
・遺伝子改変ストローマ細胞「MS5-3F」を用いた新しい共培養法を開発し、ヒト末梢血(※2)由来のB細胞からIL-10(※3)産生制御性B細胞を効率よく誘導して大幅に増幅させることに成功した。
・本培養技術は、自己免疫疾患の患者由来B細胞を用いても有効であり、将来のB細胞をベースとした全く新しい免疫療法の開発につながると期待される。
概要
自己免疫疾患では、本来は体を守る免疫系が暴走して自身を攻撃します。このため近年、免疫系の“ブレーキ役”が注目を集めています。中でも、抑制性サイトカインIL-10を産生する「制御性B細胞」は、自己免疫疾患や炎症性疾患に対する新たな免疫療法への応用が期待されています。しかし、ヒトではその数は少なく、培養も困難であることが基礎研究や治療応用の妨げとなっていました。
九州大学 生体防御医学研究所 馬場 義裕 教授、川上 亮 大学院生らの研究グループは、ヒトの末梢血から単離したB細胞を制御性B細胞へ効率よく誘導する新規技術を開発しました。
研究グループは、マウス骨髄由来ストローマ細胞MS5にB細胞の生存や分化に重要な因子を強制発現させ、この細胞上でヒトB細胞を培養しました。その結果、IL-10を産生するIgM(※4)陽性プラズマブラスト(※5)様の制御性B細胞を効率よく誘導し、大幅に増幅させることに成功しました。この制御性B細胞は、IL-10を介して活性化したT細胞の増殖を抑制しました。加えて、T細胞を制御性T細胞へと分化させる作用も見いだされ、多様な抑制機序をもつことが示唆されました。さらにこの培養技術は、本来B細胞のIL-10産生能が低下している自己免疫疾患・全身性エリテマトーデス(SLE)(※6)の患者由来B細胞についても、制御性B細胞への分化・増幅を可能にしました。
本研究で確立した培養系により、ヒト由来の制御性B細胞を安定して大量に得ることが可能となり、自己免疫疾患や炎症性疾患に対する新たな免疫療法の開発へつながることが期待されます。
本研究成果は、米国の学術誌「JCI Insight」へ2026年4月22日(水)午後0時(日本時間)に掲載されました。
研究グループからひとこと
制御性B細胞は、これまで“希少で培養困難な細胞”と考えられてきましたが、今回の培養プラットフォームにより、ヒトB細胞から安定して大量に誘導できる見通しが立ちました。自己免疫疾患の患者さんに対して、免疫のバランスを整える新しい治療法へと発展させたいと考えています。
用語解説
(※1) 制御性B細胞
過剰な免疫を抑えるB細胞の一種。B細胞もT細胞同様、抗体産生や炎症性サイトカインの産生を介して免疫応答を促進する重要な細胞だが、制御性B細胞は逆に抑制性サイトカインIL-10の産生等を介して免疫応答を抑える。Tregとは異なるB細胞由来のブレーキ役として着目されている。
(※2) 末梢血
血管中を流れる血液のこと。上腕等の静脈から採取する。採血による負担が比較的少なく、繰り返し採取することができる。
(※3) IL-10
インターロイキン10(Interleukin-10)。免疫応答は多種多様なサイトカイン(細胞が作る化学伝達物質)によって促進・抑制されるが、中でもIL-10は免疫応答の抑制に働く。
(※4) IgM
免疫グロブリンM(Immunoglobulin M)。抗体の一種で、免疫応答の初期に作られる。
(※5) プラズマブラスト
抗体産生細胞である形質細胞(プラズマ細胞)へと分化する途中段階のB細胞。分化に伴い、細胞表面マーカーであるCD27やCD38の発現が亢進する。また転写因子では、ナイーブB細胞を規定するPax5の発現が低下する一方、抗体産生を制御するIRF4やBlimp-1などの発現が亢進する。
(※6) 全身性エリテマトーデス
Systemic lupus erythematosus、SLEともいう。自己免疫疾患の一種で、全身の広範な臓器に炎症を来し、多種多様な症状を引き起こす指定難病。若年女性に好発する。詳細な発症機序は未解明だが、その病態には自己抗体(病原体ではなく自身に反応する抗体)を産生する病的なB細胞が関与する。
詳細
本件の詳細についてはこちら






