EarthCARE衛星で雲内部の鉛直運動を検証する時代を拓く

―衛星観測データと高解像度全球雲解像モデルの相補的活用が示す展望―

応用力学研究所
岡本 創 教授

ポイント

・地球全体で雲の中の鉛直方向の運動を直接的に評価することはこれまで容易ではありませんでした。本研究では雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星が観測したデータを用いることで、その評価に向けた新たな可能性を示しました。
・新しいEarthCARE衛星による雲観測データと、サブキロメートル(870m)メッシュにより大気現象を再現する高解像度モデル「NICAM」を比較し、観測とモデルを組み合わせることで、雲の微物理や鉛直運動の理解をより包括的に深める可能性を示しました。
・本成果は、将来の気候予測や豪雨など極端現象の予測の高度化に貢献し、今後のEarthCARE衛星データを利用したシミュレーション検証研究の基盤となることが期待されます。

概要

東京大学大気海洋研究所、宇宙航空研究開発機構、九州大学応用力学研究所の合同研究グループは、2024年5月に打ち上げられた EarthCARE衛星(注1)に搭載された 雲プロファイリングレーダーCPRと、高解像度全球雲解像モデルNICAM(注2)を用いた比較研究を行いました。当研究は、これまで容易ではなかった雲の中の鉛直方向の運動評価を衛星観測とモデル「NICAM」の組み合わせによって明らかにし、将来の気候予測や、豪雨などの極端現象の予測高度化に貢献するものです。

本研究の目的は、衛星観測から得られるドップラー速度(注3)データを解析し、雲中の氷粒子の落下速度や大気の鉛直運動に関するメカニズムを明らかにすることです。具体的な手法として、スーパーコンピュータを用いたNICAMの高解像度シミュレーションからCPRが観測するレーダ信号を模擬し、実際の観測データと相互比較しました(図1)。その結果、中緯度の低気圧に伴う前線や熱帯対流雲において、観測とモデルが示す鉛直構造には共通点と差異の双方が見られ、モデル表現や観測推定に伴う不確実性に関する知見が得られました。本研究結果は、新しい衛星観測データと高解像度モデルを組み合わせることで、雲微物理過程(注4)や鉛直運動の理解を深める可能性を示すものです。

本研究成果は、1月20日19時(日本時間)Scientific Reports誌に掲載されました。

用語解説

(注1)EarthCARE衛星搭載雲プロファイリングレーダー(Cloud Profiling Radar: CPR
EarthCARE(Earth Cloud Aerosol and Radiation Explorer)衛星(和名:はくりゅう)は、欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した、雲・エアロゾル・放射の相互作用を解明するための地球観測衛星です。2024年5月28日(UTC 23:20)にカリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられました。
本研究で用いたCPRは、世界で初めてWバンド(94 GHz)でのドップラー観測が可能な衛星搭載レーダであり、JAXAと情報通信研究機構(NICT)の共同開発によるものです。CPRは、雲粒子に反射したマイクロ波の周波数変化(ドップラーシフト)から、雲中の粒子の落下速度(終端速度)や鉛直気流を推定でき、これまで地上や航空機による観測に限られていた鉛直運動の情報を、全球スケールで取得できる点で画期的です。

(注2) NICAM(高解像度全球雲解像モデル)
NICAM(Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model)は、東京大学を中心に開発された全球雲解像モデルで、kmあるいはサブキロメートルスケールのメッシュで地球全体を分割することで対流雲を明示的に解像できる全球高解像度大気モデルです。本研究では、水平解像度約 870mのサブキロメートル級全球シミュレーションを使用しました。

(注3)ドップラー速度(Doppler Velocity)
対象物の動きから生じるドップラー効果(救急車の通過時に音の高低が変化することで有名)による 反射波の周波数のずれを測定(ドップラー計測)し、この測定値から換算した対象物の速度のこと。ここでは、これらの粒子が鉛直方向(上や下)にどのくらいの速さで動いているかを表しています。 ここでのドップラー速度は、雲や雨・雪などの粒子が鉛直に動く速さを観測しており、この動きには粒子自身が落ちる速さと空気の鉛直の動きの両方が含まれています。そのため、粒子の落下速度を理解することで、ドップラー速度から大気(空気)の鉛直速度を推定することができます。

(注4) 雲微物理過程(Cloud Microphysical Processes)
雲微物理過程とは、雲の中で起こる粒の変化の過程を指す言葉で、雲の粒や雨・雪の粒がどのように生まれ、成長し、結合し、凍り、雨や雪へと変わっていくかを表しています。例えば、空気が上昇して冷えると水蒸気が小さな粒になり、それらが集まったり凍ったりして大きくなります。 このような雲の中で起こる粒の成長や変化の一つ一つの現象を総称して「雲微物理過程」と呼びます。

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応用力学研究所 岡本 創 主幹教授

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