ホーム

SDGs推進本部より

SDGs推進本部より
理事・副学長からのメッセージ

九州大学理事・副学長 (SDGs担当)
岩田健治

現在,人類は気候変動,食料問題,経済格差など,解決すべき様々な課題に直面しています.そうした中で,2015年に国連サミットでSDGs: Sustainable Development Goals 「持続可能な開発目標」が策定され,様々な社会課題の解決に向けて,2030年までに達成すべき世界共通の目標が明確化されました.国連は2020年からの10年間をSDGs達成の取り組みを加速させていく「行動の10年」とし,持続可能な社会の実現に向けた取り組みのスピードを速めていくことを呼びかけています.本学も,目標達成のための解決策の探求を加速していくことが期待されているといえます.

本学では,地球環境の保全や持続可能な社会の実現に寄与する優れた人材を育成するとともに,これまで様々な研究・教育活動を通して社会貢献を推進して参りました.しかし,目標の達成のためには,今後もより一層取り組みを加速させ,技術・社会システムの創造を促進し,課題解決の方策を探求していくことが肝要であるといえます.

加えて,効果的にSDGsの達成に向かっていくためには,産学官が一丸となって協働していくことが重要な鍵になります.学術と社会とのつながりを模索し,強固にしていくことによって,基礎的な科学的知見に関する新たな蓄積を生むだけでなく,現実社会のより具体的な課題を解決していくことが可能となります.

産学官の連携が一層重視される中,本学では,大学や企業,自治体と様々な形で連携を行い,研究・教育によって生み出される価値を提供することで社会に貢献してきました.例えば,企業や自治体と協働する中で,技術や科学的知見の社会実装,ワークショップを通したまちづくりや教育活動の推進,科学的知見に基づいた政策提言などを進めてきました.さらに,本学は世界各地の有数の大学と大学間協定を結んでおり,積極的な人的交流や共同研究の推進を通して,優れた人材の育成や新たな科学的知見の創造を行ってきました.

また,新型コロナウイルス感染症の世界的流行は,予測のできない要因が人々の生活に大きな影響をもたらしうることを世界に突きつけました.この状況を打破するためには,我々は大学人として「自然と人間の共生」,「自然と科学技術の共生」ということについて改めて深く思索し,解決の方策を探求していく使命があります.それこそが,新型コロナウイルス感染症への対処につながるだけでなく,その先の持続可能な新たな時代を作り上げる第一歩になるはずです.

今後も,本学においてSDGsを達成するための取り組みをさらに活発化させ,SDGsに関する教育・研究・連携をより強化し,持続可能な社会の実現に向けて一歩一歩前進して参ります.

担当者からのメッセージ

九州大学総長補佐
主幹教授
馬奈木俊介

九州大学は,「人類の持続可能な開発」に貢献することを目標として掲げています.人類の持続可能な開発のためには,以下の3つの要件が必要になります.
① 将来の世代のニーズを充足する能力を損なうことなしに、今日の世代のニーズを満たしうるような発展(「快適未来社会」に相当)を進める.
② 2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロ目標へ向かわせる(「脱炭素社会」に相当).
③ 健康かつ安心な社会を担保する(「健康安心社会」に相当).
これらを要約すると,資源環境制約のもとで,人類の生活の質を担保し,現在と将来世代のウェルビーイングを向上する社会へ向かうことが必要である,といえます.快適未来社会の実現のためには社会科学の知見が重要であり,脱炭素社会の実現には工学・理学,健康安心社会の実現には医学が必要となります.これらが互いに連携しあい,持続可能な将来へ進むための研究教育機関となるべく,九州大学は取り組みを進めています.

これら3つの要件をそれぞれもう少し詳しく紹介します.まず,快適未来社会についてです.快適未来社会の実現,つまり,人類と地球の持続可能な発展のための変革は,社会の喫緊の課題であるといえます.現在,快適未来を担保する技術が開発されています.こうした技術はインフラ,健康,教育,化石燃料使用の削減などの人間活動・地球環境にかかわる項目だけでなく,包括的な成長のための持続可能な開発目標(SDGs)にも資するものです.SDGsはいまや世界における共通の社会的課題であり,中でも生物多様性等の多くの問題がすでに世界の許容限度を超え,地球がその限界に近づいていることを示しています.

こうした状況下で,国連報告書にて持続可能性指標(新国富指標)が構築され,持続可能性の評価を科学的知見に基づいて定量的に進める動きが加速しています.新国富指標は,豊かな社会・経済を生み出す資本全体を推計した指標であり,人の豊かさ,物的な豊かさ,自然の豊かさの3つの資本の合計で計算されます.新国富指標のような有効なツールを用いて豊かさを計測・予測していくことで,将来の世界が持続可能な社会を辿るためにどのような道筋を進んでいけばよいか,それを考案する材料を提供することに繋がります.

次に,脱炭素社会についてですが,これは2050年までに二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする社会を実現することを指します.温室効果ガスを減らし,気候変動問題を解決することは世界中が共通で取り組むべき課題です.2015年12月には国際的な枠組みであるパリ協定が採択され,今世紀後半までに人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を達成することが国際的な目標として掲げられました.

従来は,CO2排出量が低い水準に抑えられた社会(低炭素社会)が目標とされてきました.しかし,低炭素社会の実現に向けて設定された目標は,気候変動を止めるためには不十分であるという認識が広がり,国際社会が目指すべき指針が低炭素社会から脱炭素社会へとシフトしてきました.脱炭素社会の実現のためには,従来の技術の単なる延長や最適化を行うだけでは十分ではないといえます.そこで,未来社会のエネルギーシステムがどのようなものになるべきかを構想し,技術・産業・社会のパラダイムシフトを先導していくことが求められます.例えば,風力等の再エネ由来のCO2フリー水素を活用した水素社会モデルや,CO2を大気中から直接回収し,エネルギー資源として活用できる一般普及型CO2循環システムなどに代表されるネガティブエミッション技術の開発が重要になります.そのため,再生可能エネルギー接続問題や原発再稼働などの現実の問題に立ち向かいつつ,エネルギー問題の最前線となる九州から,将来の革新的な技術開発・政策提言を行う社会を構築する取り組みを広げていくことが重要です.

続いて,健康安心社会とは,人々がより長く健康でいられる社会の実現を目指しつつ,政府・自治体の医療関連コストの削減につながる社会のことを指します.人々が健康に活動でき,安心して働ける社会を目指し,社会・経済の持続的成長を妨げる課題を解決することこそが,健康安心社会の実現につながるといえます.この健康かつ安心な社会を担保し,クオリティ・オブ・ライフの向上に資する社会のためには,医療データの連携,デジタル診療技術など医療の高度化と効率化が必要になります.そのうえで,基礎医学に臨床研究を融合する医療の治療・予防システムとデバイスを構築していくことが重要です.特に,我が国では超高齢化の伸展と健康へのニーズの高まりから,健康で幸せな生活とそれを支える社会システム構築のための新しいテクノロジーの必要性が高まっています.ヘルステクノロジーによる社会価値創出に向けて取り組みを加速していくべきであるといえます.

持続可能な社会を着実に実現するためには,これら全ての要件を満たす努力をしていく必要があります.そのために九州大学は,基礎・応用研究の双方をさらに推進しつつ,多分野の学際的融合を進めながら,解決のための新たな知の創造を行っていくべく,取り組みを進めていくことが重要であると考えます.九州大学が一丸となってSDGsの達成に取り組むことで,必ず持続可能な社会の実現に貢献できると期待しています.