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成体マウスの聴神経(ラセン神経節ニューロン)の再生に成功

〜聴力改善治療に期待〜

概要

 九州大学大学院医学系学府博士課程の脇園貴裕大学院生(研究当時)、共同研究員の安井徹郎医学博士(研究当時)、同大学大学院医学研究院の中嶋秀行助教、中島欽一教授らの研究グループは、傷害を受けた成体マウスの内耳において、少数の新しい神経細胞(ニューロン)が出現することを発見し、その数を増殖因子とバルプロ酸の同時投与により著しく増やすことに成功、その結果、一度失われた聴力が回復することを発見しました。
 現在、世界には人口の約5%にあたる4億3000万人以上の難聴者が存在し、2050年までに25億人近くが難聴を持つと予測されています(WHO統計、2021年)。しかしながら、内耳および聴覚神経の傷害は、これらの細胞が哺乳動物では再生しないと考えられてきたことから、補聴器や人工内耳などのデバイスによる対症療法のみで、根本的な治療法はありませんでした。近年、一次聴覚ニューロン(※1)であるラセン神経節ニューロン(※2)が存在するラセン神経節において、傷害時に増殖性を有する神経幹細胞(※3)様細胞の出現が報告されました。しかし、先行する報告では、これらの増殖性細胞はニューロンへとは分化せず、全てグリア細胞へと分化してしまうとされ、聴力改善も観察されませんでした。
 本研究グループは、内耳傷害を与えたマウスを詳細に解析することで、傷害時に出現するこの増殖性細胞が、実は、非常に少数ながらニューロンへと分化していることを見出しました。また、増殖因子とバルプロ酸(※4)との組み合わせ投与によりこの神経幹細胞様細胞の増殖を促進すると同時に、ニューロンへの分化及びその後の生存率を著明に亢進できることを見出し、傷害後の聴覚機能を改善させることに成功しました。これらの成果は難聴に対する治療法として、将来的な臨床への応用が期待できます。
 本研究成果は、2021年11月22日(月)午後12時(米国東部標準時間)に国際学術雑誌『JCI insight』に掲載されました。なお、本研究は日本学術振興会科研費(JP17K16925、JP16H06527、JP16K21734)の支援を受けました。

用語解説

(※1)一次聴覚ニューロン
一次ニューロンは、末梢で受容された感覚刺激を次のシナプスまで伝える神経であり、聴覚路ではラセン神経節ニューロンがこれに当たる。
(※2)ラセン神経節ニューロン (SGN)
双極性の神経細胞で、末梢では感覚上皮細胞である有毛細胞とシナプスを形成して、有毛細胞からの刺激を受容し、中枢側では脳幹の蝸牛神経核に伝達する。
(※3)神経幹細胞
増殖によって自分自身を複製する能力(自己複製能)と、脳を構成する主要な細胞種であるニューロン・アストロサイト・オリゴデンドロサイトへと分化する能力(多分化能)を併せもつ細胞。
(※4)バルプロ酸 (VPA)
抗てんかん薬として、世界中で頻用されている薬剤である。その作用機序としては GABA の不活性化抑制が広く知られているが、その他にヒストン脱アセチル化酵素阻害作用など様々な作用を有する。

詳細

九州大学プレスリリースをご参照ください。

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