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エクソソームの形状分布解析に成功

~新しいがん診断指標として期待~

 九州大学先導物質化学研究所の龍崎奏助教・玉田薫教授、名古屋大学大学院工学研究科生命分子工学専攻の安井隆雄准教授・馬場嘉信教授、大阪大学産業科学研究所の筒井真楠准教授・谷口正輝教授・川合知二招聘教授、東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広教授らの共同研究グループは、体液中に存在するエクソソーム(※1)と呼ばれる生体粒子の形状分布が、がん診断の新しい指標として使える可能性を発見しました。

 エクソソームとは細胞から分泌される直径100 nm(※2)程の粒子で、血液や尿などの体液中に存在しています。これまで電子顕微鏡(※3)によって様々な形を有するエクソソームが観察されてきましたが、溶液中(体液中)に分散しているエクソソームの形状を計測する技術はありませんでした。今回、当研究グループは、独自に開発してきたナノポアデバイス(※4)と呼ばれる1粒子形状解析技術を用いることで、肝臓がん細胞、乳がん細胞、大腸がん細胞、乳腺細胞由来のエクソソームの形状分布を計測することに成功し、さらにその形状分布がそれぞれ異なっていることを発見しました。例えば、肝臓がん細胞由来のエクソソームは、球状粒子とラグビーボールのような楕円球状の粒子が混在していましたが、乳がん細胞由来のエクソソームは球状粒子のみでした。また、乳がん患者と健常者の血中エクソソームを比較したところ、異なった形状分布をしており、今回の実験では乳がん患者と健常者の識別が可能でした。今後、さらに様々なエクソソームを計測する必要がありますが、本研究により、体液中エクソソームの形状分布を調べることで体内のがんを検出し、さらにそのがんの種類も特定できる可能性が示唆されました。

 本研究成果は、2021年 4月28日(米国東部時間)に、アメリカ化学会(ACS)が出版する 「Analytical Chemistry」にRapid discrimination of extracellular vesicles by shape distribution analysisというタイトルで公開されました。本研究は、主に科学技術振興機構(JST)さきがけ(JPMJPR17HC)と日本学術振興会科学研究費(15H05417)の支援を受けて行われました。

用語説明

(※1) エクソソーム
エクソソーム(細胞外小胞、以下 EV)は細胞からの分泌物で、直径 100 nm ほどの脂質二重膜小胞である。近年の研究から、EV は細胞間コミュニケーションに関与していることが明らかとなり、分泌元の細胞情報を持っていることから、がん細胞のバイオマーカーとして注目を集めている。特に EV の中に含まれている miRNA を用いたバイオセンサー開発では、実際にいくつかのがんを検出することに成功している。また、形状や硬さなどの物理的な特徴についても注目を集めているが、体液中に分散している EV の形状や硬さを計測することは技術的に難しいため、これら物理的特徴に関しては未解明な部分が多い。
(※2) nm(ナノメートル)
1 nm = 1/1000000000 m(10 億分の 1 メートル)
(※3)電子顕微鏡
通常の顕微鏡(光学顕微鏡)では光を用いて観察を行うが、電子顕微鏡では光の代わりに電子(電子線)を用いる。原理的に光よりも電子を用いることでより小さい構造が観察できる。
(※4)ナノポアデバイス
ナノポアデバイスは、革新的な 1 分子/1 粒子解析技術として期待されている。ナノポアデバイスの構造は、ナノポアの上下にイオン電流計測および電気泳動用の電極が設けられ、ナノポアと電極はともにKCl などの電解質溶液で満たされている。ナノポア内に粒子が無ければ、ナノポアを介して電極間にイオン電流が流れ、電気泳動により粒子がナノポア内に入ると、一部のイオン電流が粒子によって遮断されイオン電流が減少する。この減少量がナノポア内の粒子体積に比例するため、ナノポアの厚みが通過粒子よりも十分に薄い場合、通過粒子の連続的な断面体積情報がイオン電流から算出され、そこから粒子形状を定量的に求めることが可能となる。この形状解析技術は当研究グループによって確立してきた独自技術である。

詳細

プレスリリースをご参照ください。

海岸性ハネカクシ科甲虫の新種を発見

「より良い未来に向けたロハスコンセプト:アジア天然資源を価値あるものとしていかに活用するか  ―薬、機能性食品、アロマ、化粧品、木造住宅―」(第5回 Q-AOS Brown Bag Seminar Series)

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