絶滅危惧種のバラに⾍こぶを作る新種のタマバチを発⾒

~ 樹状高分子を結合することで発光効率と安定性が向上 ~

ポイント

・サンショウバラは富⼠⼭や箱根周辺のみに分布する、世界でも希少なバラの1種です。この植物だけに⾍こぶを作るタマバチを新種として発表しました。本種の学名は、標本を採集された⼩川治夫⽒に献名してDiplolepis ogawai と名付けました(ogawai は⼩川⽒のという意味)。また、本種はサンショウバラの主に葉に⾍こぶを作ることから、和名はサンショウバラハタマバチといいます。上記の地域においてサンショウバラハタマバチの天敵である寄⽣蜂2種(コマユバチ科の1種とヒメコバチ科の1種)はこの新種のタマバチに依存していると考えられます。
・新種のタマバチとその寄⽣蜂からなる、従来、知られていなかった昆⾍群集が絶滅危惧種サンショウバラ上に存在することを明らかにしました。この植物は絶滅の危険が増⼤しており、このまま減り続ければタマバチとその寄⽣蜂も連鎖的に絶滅して昆⾍群集が消滅する恐れがあります。絶滅の連鎖を防ぐため、サンショウバラが⽣えている環境の保全が強く望まれます。

概要

 サンショウバラは富⼠⼭や箱根周辺だけで⾒られる希少なバラの1種で、絶滅危惧種に指定されています。環境省(2015)の推定によれば、サンショウバラは株数が過去10 年間に31%減少し、100 年以内に絶滅する確率は82%です。森林の伐採や植⽣の遷移により絶滅の危険が増⼤しています。
 サンショウバラの主に葉に⾍こぶ(図1)を作るタマバチ(図2)とその天敵である寄⽣蜂を⼩川治夫⽒が採集して、その研究を九州⼤学⼤学院⽐較社会⽂化研究院の阿部芳久教授に託されました。そこで阿部教授は⽐較社会⽂化研究院の松尾和典講師、井⼿⻯也客員准教授(国⽴科学博物館動物研究部研究員)、地球社会統合科学府博⼠課程3年の鄔亜嬌(ウーアキョウ)⼤学院⽣、神⼾⼤学⼤学院農学研究科の前藤薫教授と共同研究を⾏い、⾍こぶを作るタマバチとその寄⽣蜂2種の形態について精査し、DNA バーコード領域(※1)のDNA 塩基配列も調べました。その結果、タマバチは未記載種であることが判明しましたので、⼩川⽒に献名してDiplolepis ogawai という学名の新種として発表しました。本種の和名はサンショウバラハタマバチといいます。寄⽣蜂はコマユバチ科の1種とヒメコバチ科の1種で、これらの寄主はこの新種のタマバチしか知られていません。
 新種のタマバチとその天敵である寄⽣蜂からなる昆⾍群集が絶滅危惧種サンショウバラ上に存在することを、本研究で明らかにしました。富⼠⼭や箱根周辺において、この希少な植物が⼀次絶滅すれば、植⾷者であるタマバチが⼆次絶滅し、それに引き続きタマバチの天敵であるコマユバチとヒメコバチも三次絶滅してしまいます(図3)。今回、初めて明らかにされた昆⾍群集を、絶滅の連鎖によって消滅させないために、サンショウバラが⽣えている環境の保全が強く望まれます。今回のように、絶滅危惧種の植物だけに依存する昆⾍が⾒つかった場合、そのような昆⾍たちも絶滅危惧種に指定して、注意喚起する必要があると考えます。
 本研究成果は⽶国昆⾍学会の国際学術誌「Annals of the Entomological Society of America」の電⼦版に2023 年3 ⽉27 ⽇(⽇本時間)に掲載されました。

用語解説

(※1) DNA バーコード領域
⽣物の種名を決めるときにDNA の塩基配列を調べる遺伝⼦の⼀部のことです。昆⾍を含む動物ではミトコンドリアCOI 遺伝⼦が標準的に利⽤されます。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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