⻘⾊LED を⾼エネルギーなUVB 光へと変換する⾊素材料を開発

~ サステイナブルな光エネルギー変換、殺菌、排⽔処理へ道~

ポイント

・従来、UVB 光(波⻑280~315 nm)を⼈⼯的に⽣成するには⽔銀灯など効率の悪い光源を使⽤する必要があった。
・UVB 光は光エネルギー変換、殺菌、廃⽔処理など、さまざまな光化学反応に有⽤。
・重⾦属を⽤いずに⻘⾊LED 光をUVB 光へとアップコンバージョンすることを可能に。

概要

 紫外光のうち波⻑ 280~315 nm のUVB 光は、光エネルギー変換、殺菌、排⽔処理といった幅広い応⽤に不可⽋な光です。⼀⽅で、太陽光に含まれるUVB 光の割合は⾮常に低く、UVB 光を⼈⼯的に⽣成するには⽔銀灯など効率の悪い光源を使⽤する必要がありました。
 本研究で、九州⼤学⼤学院⼯学研究院の楊井伸浩准教授、Bibhisan Roy 博⼠研究員、同⼤学⼤学院⼯学府の宇治雅記⼤学院⽣は、ヨハネス・グーテンベルク⼤学マインツ(JGU)のChristoph Kerzig ジュニア教授、Till J. B. Zähringer ⼤学院⽣、Julian A. Moghtader ⼤学院⽣(⼆⼤学間の学⽣交換プロジェクトにより九州⼤学に短期滞在中)、Maria-Sophie Bertrams ⼤学院⽣との国際共同研究により、⻘⾊LED 光をUVB 光へとアップコンバージョンする⾊素材料を発⾒しました。加えて本系では、従来系の多くで⽤いられてきたイリジウムや⽩⾦といった重⾦属を⽤いずにこのアップコンバージョンを達成したことから、低コストかつ⾼い持続可能性が期待されます。三重項−三重項消滅(TTA)*1,2を⽤いたフォトン・アップコンバージョン(UC)*3により、安価な⻘⾊LED や太陽光に多く含まれる波⻑ 400nm 以上の可視光を⾼効率でUVB 光へと変換することができれば、クリーンな有⽤化合物製造や⾼効率な殺菌、排⽔処理システムが実現できると期待されます。
 本研究成果は、2022年11⽉18⽇(⾦)にドイツの国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。

用語解説

*1)三重項
分⼦の状態の⼀つで、スピン多重度 2S + 1 = 3 となるような、スピン量⼦数 S = 1 の状態(基底状態と励起状態の電⼦スピンが打ち消しあわない状態(図3)を指します。励起三重項状態(T1)から基底⼀重項状態(S0)への失活はスピン禁制遷移であるためとても遅く、近くの分⼦にエネルギーを受け渡すことができます。
*2)三重項−三重項消滅(triplet-triplet annihilation, TTA)
⼆つの励起三重項状態(T1)の分⼦が衝突することで、⼀⽅のエネルギーが他⽅に移り、エネルギー的により⾼い励起状態が⽣成する過程を指します。ここで、T1の分⼦⼆つの持つエネルギーが⼀つの分⼦の励起⼀重項状態(S1)の持つエネルギーより⼤きいとき(2xET1> ES1)、TTA を経た後に S1の⼀分⼦が効率よく⽣成されます。
TTA を起こす発光⾊素(アクセプター分⼦)と T1を効率的に⽣成する増感剤(ドナー分⼦)を組み合わせ、フォトン・アップコンバージョンを起こす⽅法が TTA-UC と呼ばれています。⼀般的な TTAUCでは、まずドナー分⼦が光を吸収し、項間交差(intersystem crossing, ISC)を経て、T1を⽣成します。その後、ドナーからアクセプターへの三重項エネルギー移動(triplet energy transfer, TET)により、アクセプターの T1が⽣成されます。⼆分⼦のアクセプター T1が拡散・衝突して TTA を起こすことで、ドナー S1より⾼いエネルギーを持つアクセプター S1が⽣じ、UC 発光が得られます(図4)。
*3)フォトン・アップコンバージョン(photon upconversion, UC)
低いエネルギーを持つ光を⾼いエネルギーを持つ光に変換する⽅法論です。古典的には、第⼆次・第三次⾼調波発⽣、多光⼦吸収などの⾮線形光学現象が⽤いられてきました。近年では希⼟類元素の多段階励起も多く報告されていますが、⾼い励起光強度の光が必要となるため、適応範囲が限られています。そこで近年、太陽光程度の弱い光でも駆動しうる三重項−三重項消滅(TTA)に基づく UC 機構が注⽬を集めています。

詳細

詳細はプレスリリースをご参照ください。

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