~事前データ不要で推定を可能に~
ポイント
1.生物に見られる多様なリズムを生み出す「振動子」の相互作用をコンピューターによる機械学習で推定するには膨大な事前のデータ(教師データ)が必要。
2.本研究で、事前データなく、振動子間の相互作用およびノイズの大きさを推定する新理論を開発。
3.機械学習やAIへの期待が集中する今日に、起きている現象を方程式で記述し、理論を作って答えを導く「物理学の伝統的スタイル」によって本研究は達成された
約24時間周期の概日リズムや約1秒間隔の心臓の拍動など、生物に見られる多様なリズムは、振り子時計にもたとえることができる「振動子」から作り出されています。リズムを乱す要因となりうるノイズにさらされた中でも安定的なリズムが生み出されている理由は、複数の振動子が相互作用することによって、互いに足並みを揃える「同期状態」を維持しているからです。逆に、相互作用が十分強くなければ機能不全に陥ります。相互作用の強さを、観察対象を傷つけることなく自然な状態のままで測ることができれば、相互作用によって機能を正常に保つ仕組みを明らかにできる可能性があります。
このような背景から、九州大学数理・データサイエンス教育研究センター/大学院芸術工学研究院の森史助教と東京大学大学院新領域創成科学研究科の郡宏教授の研究チームは、結合位相振動子と呼ばれる数理モデルを用いて、振動子間の相互作用およびノイズの大きさを、自然に発生する振動の時刻のデータだけから推定する公式を導出しました。同様の推定を機械学習で行おうとすると事前に膨大な教師データ、すなわち、相互作用強度があらかじめわかっているシステムの振動時刻データが必要ですが、本手法は教師データを必要とせず、しかも、比較的少量のデータで正確な推定を実現します。本手法によって、生物システムなどのデリケートなシステムの情報を得られる可能性が大きく広がりました。
本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』の掲載に先駆け、オンライン版が2022年2月2日(現地時間)に公開されました。
詳細
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