~血液成分をバリアする層の足場となる水分子の解析に成功~
ポイント
・新型コロナウィルス感染症のECMO治療のためにも優れた抗血栓性材料が必要
・抗血栓高分子PMEAの抗血栓性発現のメカニズムを世界で初めて解明
・新たな抗血栓性材料の創製を支える研究成果であり、今後の医療技術の躍進に貢献
概要
新型コロナウィルス感染症が世界的な問題となっている近年、体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた治療が重症患者の命を繋ぐ砦として利用されています。しかし、ECMOの利用には血液循環に伴う回路内部での血栓形成が原因で長期間にわたる使用が不可能という制限があり、これが医療スタッフの不足という深刻な問題の原因の1つとなっています。この問題を解決するために、長期間の使用に耐えうるような、優れた抗血栓性を有する材料の開発が求められています。
九州大学先導物質化学研究所の田中賢教授、村上大樹助教、西村慎之介学術研究員らの研究グループは、東京大学物性研究所の原田慈久教授らとの共同研究により、実際にECMOの回路内壁コーティングにも使用されているポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)の抗血栓性が発現するメカニズムの解明に成功しました。
PMEAと血液成分との界面には特殊な構造の水がバリア層として存在していることが予想されていました。本研究では高輝度放射光施設SPring-8での軟X線を中心とした精密な電子状態の解析により、バリア層の形成に先立って、PMEAと水の相互作用によって界面にナノメートル(10-9メートル)サイズのミクロ相分離構造が形成し、その相分離構造の特定の部位に吸着したわずかな量の水分子が足場となり、その後のバリア層の成長が起こることを解明しました。
この発見は既製品を超える性能を持つ新たな抗血栓性材料を創製するための設計指針を与えるもので、新型コロナウィルス対策のみでなく、今後の超高齢社会を支える医療技術の躍進のためにも極めて重要な研究成果であり、幅広い展開が期待されます。
本研究成果はアメリカ化学会発行の学術雑誌Langmuirで2022年1月7日に公開されました。
詳細
九州大学プレスリリースをご参照ください。