世界最高ミュオグラフィ観測精度を達成
ポイント
・世界初海底ミュオグラフィセンサーアレイ(注1)の長期運用によって得られた79日間(6月1日〜8月18日)のミュオグラフィデータと天文潮位データとを比較することにより、2時間の時間分解能で密度の時間変化にして3パーミル(千分の3)(約1日の時間分解能では、1.5パーミル(1万分の15))のミュオグラフィ観測精度としては、世界で最も高い精度を達成したことを確認した。
・ミュオグラフィ(注2)はこれまで火山、原発、ピラミッドなど陸域における透視に成果を上げてきたが、陸域での測定において1パーセントを切る密度の時間変化を捉えることは極めて困難であった。ミュオグラフィを海へ展開することで、今回、これをオーダーで改善した観測精度を達成した。
・国内外の港湾部における地震や台風などによる津波、海底地形の時間変化などを陸域以上に精度良くイメージングできることが示された。
・将来、ミュオグラフィセンサーアレイを実際の海底に実装することにより、東京湾底における海底下空間利用に係る評価への活用、海底火山や海洋地殻の内部構造探査、更には、二酸化炭素貯留隔離(CCS)モニタリングなどへの応用展開が期待される。
概要
東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は、同大学生産技術研究所、大気海洋研究所、大学院新領域創成科学研究科、および九州大学、英国シェフィールド大学、英国ダラム大学、英国科学技術施設会議ボルビー地下実験施設、イタリア原子核物理学研究所、イタリアサレルノ大学、イタリアカターニャ大学、ハンガリーウィグナー物理学研究センター、チリアタカマ大学、フィンランドオウル大学Kerttu Saalasti研究所と共同で、世界初となる海底ミュオグラフィセンサーアレイ(HKMSDD:Hyper KiloMetric Submarine Deep Detector)の一部を東京湾アクアライン海底トンネル内部に設置し、この東京湾海底(Tokyo-Bay Seafloor)HKMSDD(TS-HKMSDD)を用いて、令和3年6月1日〜8月18日までの79日間の長期観測を実施した。本ミュオグラフィ観測により得られたデータと天文潮位データとを比較することにより、2時間の時間分解能で密度の時間変化にして3パーミル(千分の3)(約1日の時間分解能では、1.5パーミル(1万分の15))の世界最高観測精度を達成したことを確認した。
ミュオグラフィは、宇宙に由来する高エネルギー素粒子ミュオン(注3)を用いて巨大物体を透視する技術である。これまで火山、原発、ピラミッドなどの透視に成果を上げているが、陸域での測定においては、1パーセントを切る密度の時間変化を追うことは極めて困難であった。ミュオグラフィを海へ展開することにより、これをオーダーレベルで改善した観測データを確認した。
この精度の達成により、国内外の港湾部における地震や台風などによる津波、また海底地形の時間変化を精度良くイメージングできることになる。今後、本技術の応用展開の可能性として、東京湾の堆積物構造や温室効果ガス(メタン)の実態把握など、海底下空間利用に係る評価への活用が期待される。更に、将来、HKMSDDを耐圧容器に入れ、より深い海底に適用することにより、海底火山や火山島などを含む海洋地殻の内部構造や、海底下環境における二酸化炭素貯留隔離(CCS)等の環境モニタリング技術としての応用展開が期待される。
用語解説
(注1)海底ミュオグラフィセンサーアレイ(TS-HKMSDD)
素粒子ミュオン(注3)を検知できるミュオグラフィセンサーモジュールを一定の間隔に配置したもの。ミュオンが検知されるたびTS-HKMSDDの中央に位置するデータ収集センターに信号が集められ、記録される。今回、東京湾アクアライン海底トンネル内部の100 mにわたり設置されたが、今後さらなる拡張や北海、英仏海峡、フィンランド湾など東京湾以外における設置が計画されている。
(注2)ミュオグラフィ
ミュオン(注3)の強い貫通力(岩盤で1km以上)を用いるレントゲン写真撮影法。医用のレントゲン写真ではX線を利用するが、これはX線の透過力が人体程度であることを利用している。ミュオンの透過力が海洋の深さ程度のオーダーであることからミュオグラフィを利用して海のレントゲン写真を撮影可能である。
(注3)ミュオン
主に超新星などの銀河系の高エネルギーイベントによって光速まで加速される宇宙線と呼ばれる粒子が地球に到達すると、大気を構成する窒素や酸素の原子核と反応して高エネルギーの二次粒子生成する。その一つがミュオンと呼ばれる素粒子であり、貫通力が強い。
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