〜疾病治療や老化研究への応用を期待〜
LONP1(※1)はミトコンドリアマトリクスに局在するプロテアーゼであり、またCODAS (脳・眼・歯・耳介・骨格)症候群(※2)やミトコンドリア脳筋症(※3)の原因遺伝子であることが知られています。LONP1の機能が低下した患者の細胞では、タンパク質がミトコンドリアマトリクス内で不溶化し凝集体を生じることが知られていますが、この凝集体が生じるメカニズムについては明らかにされていませんでした。
九州大学 大学院 医学研究院 基礎医学部門 臨床検査医学分野の松島雄一助教、康東天教授、前橋工科大学 工学部 生命情報学科の福地佐斗志教授らの研究グループは、LONP1の機能が低下すると新規にミトコンドリアマトリクスへ輸送された特定のタンパク質が速やかに不溶化することを明らかにしました。またLONP1のATP加水分解活性を介したシャペロン様活性(※4)が特定のタンパク質の可溶化に必要なこと、著しく不溶化するタンパク質には天然変性領域(※5)を多く持つ傾向があることを示しました。さらに、ミトコンドリア移行シグナルが切断されないまま輸送された新規輸送タンパク質はLONP1によって速やかに分解されることも明らかにしました。このようにLONP1は特定の新規輸送タンパク質の可溶性に寄与する一方で、新規にミトコンドリアマトリクスに輸送された不良タンパク質の分解にも寄与することから、LONP1は特定の新規輸送タンパク質にとって“門番”の役割を果たしていることを示しました。本研究の成果はCODAS症候群などの発症機序の解明や治療法を開発する上で基礎となる知見です。
本研究成果は、2021年8月16日(月)午後6時(日本時間)に英国科学雑誌『Communications Biology』に掲載されました。
用語解説
(※1) LONP1
ミトコンドリアマトリクスに局在するプロテアーゼであり、ATPase ドメインを持ちホモ 6 量体として機能する。
(※2) CODAS (脳・眼・歯・耳介・骨格)症候群
発達遅延、白内障、異常な歯列形態と歯の萌出遅延、外耳の奇形、脊椎骨形成不全などを伴う稀な多発性先天異常症候群。
(※3) ミトコンドリア脳筋症
ミトコンドリア機能が低下することが原因で、主に脳や筋肉などに異常をきたす病気。
(※4) シャペロン様活性
タンパク質分子の正しい立体構造形成を補助しタンパク質凝集を防ぐ機能。
(※5) 天然変性領域
タンパク質の中で特定の立体構造を持たない領域。
詳細
九州大学プレスリリースをご参照ください。