—電荷秩序が磁化の方向変化を誘起、負熱膨張への展開も—
ポイント
・ペロブスカイト型酸化物鉄酸鉛の特異な電荷分布を解明
・鉄スピンの方向が変化するメカニズムを理論的に解明
・新しい負熱膨張材料の開発につながることが期待される
概要
東京工業大学 科学技術創成研究院のHena Das(ヘナ ダス)特任准教授、酒井雄樹特定助教(神奈川県立産業技術総合研究所 常勤研究員)、東正樹教授、西久保匠研究員、若崎翔吾大学院生、九州大学大学院総合理工学研究院の北條元准教授、名古屋工業大学大学院工学研究科の壬生攻教授らの研究グループは、ペロブスカイト型(用語1)酸化物鉄酸鉛(PbFeO3)がPb2+0.5Pb4+0.5Fe3+O3という特異な電荷分布(用語2)を持つことを明らかにした。
同様にBi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3の電荷分布を持つBiNiO3(ビスマス・ニッケル酸化物)は、改質することで巨大な負熱膨張(用語3)を示すため、PbFeO3を元にした巨大負熱膨張材料の開発も期待される。Pb2+とPb4+が秩序配列(用語4)するために、周囲の環境の異なる2種類の鉄イオン(Fe3+)が存在し、温度によって磁化の方向が変化するスピン再配列(用語5)につながることも明らかにした。
研究成果はNature Communications(ネイチャー コミュニケーションズ)のオンライン版で3月26日に公開されました。
研究グループには、中国科学院物理研究所、瑞国ポールシェラー研究所、独国マックスプランク研究所、台湾国立放射光科学研究センター、仏国放射光施設ESRF、米国オークリッジ国立研究所、中国松山材料実験室が参画した。
用語解説
(用語1)ペロブスカイト型:一般式 ABO3 で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。
(用語2)電荷分布:鉛は 2 価と 4 価、鉄は 2 価、3 価、4 価、5 価、6 価を取ることができる。それらの価数の組み合わせ。
(用語3)負熱膨張:通常の物質は温めると体積や長さが増大する、正の熱膨張を示す。しかし、一部の物質は温めることで可逆的に収縮する。こうした性質を負熱膨張と呼び、ゼロ熱膨張材料を開発する上で重要である。
(用語4)秩序配列:繰り返し周期を持って整然と配列していること。
(用語5)スピン再配列:磁性体において、秩序配列したスピンの方向が、ある温度を境に変化すること。
詳細
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