ニュートリノの反応率を、加速器史上最高エネルギーにて測定

基幹教育院
有賀 智子 准教授

テラ電子ボルト帯での電子ニュートリノとミューニュートリノの物質との相互作用を世界初測定

概要

 千葉大学大学院理学研究院の有賀昭貴准教授(スイス・ベルン大学兼任)と九州大学基幹教育院・共創学部の有賀智子准教授らの国際研究グループは、FASER国際共同実験注1)(以下FASER実験)にて、欧州原子核研究機構(CERN)が所有する世界最高エネルギーの加速器、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)注2)を用いて、テラ電子ボルト(1TeV)注3)の電子ニュートリノとミューニュートリノの反応断面積(物質との相互作用の強さ)を測ることに世界で初めて成功しました(図1)。
 FASER実験で今後、タウニュートリノを含むニュートリノ注4)3世代の性質の測定の精度を上げ、素粒子標準模型注5)の検証を行うことにより、高エネルギーでの未知の物理の有無が明らかになると期待されます。
 本研究成果は、2024年7月11日に米国科学雑誌Physical Review Lettersに、同誌が選ぶ特に重要な論文であるPRL Editors’ Suggestionとして掲載されました。

用語解説

注1) FASER国際共同実験:ダークマター注6) ダークマター:天文現象を説明するために導入されたが、まだ発見されていない未知の粒子のこと。の正体解明に繋がる未知粒子を探索することと高エネルギーニュートリノ研究を目的とし、CERN の大型ハドロン衝突型加速器LHC(注2)の陽子衝突点の超前方(ビーム軸に対して 0.03°程度)の 480m 地点に検出器を設置して行う実験。FASER実験のニュートリノプログラムは有賀昭貴准教授と有賀智子准教授らが提案し、国際研究グループを牽引してきた。

注2) 大型ハドロン衝突型加速器(LHC):高エネルギー物理学実験を目的として、CERNが建設した世界最高エネルギーのハドロン衝突型加速器。2つのビーム(加速された粒子)を正面衝突させる加速器で、静止した標的に加速した粒子を衝突させる手法に比べてはるかに高いエネルギーでの衝突となり、より微細な構造を調べる実験が可能となる。

注3) テラ電子ボルト(1TeV):電子を1兆Vの電位差(単3電池7000億個相当)で加速した時のエネルギー。

注4) ニュートリノ: 素粒子標準模型における、電荷を持たず質量が非常に小さい素粒子のこと。

注5) 素粒子標準模型:17種類の素粒子の電磁相互作用、強い相互作用、弱い相互作用の3つの基本的な相互作用を記述するためのモデル。

注6) ダークマター:天文現象を説明するために導入されたが、まだ発見されていない未知の粒子のこと。

研究に関するお問合せ先

基幹教育院 有賀 智子 准教授

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