次世代有機EL発光材料の 発光効率の増幅効果を新理論から発見!

~ 新原理に基づく高性能な有機EL材料の創出に光 ~

ポイント

・次世代有機EL発光材料の発光効率を増幅する新しい量子機構の理論的発見に成功
・量子過程シミュレーションに必要なパラメータを高精度に推定可能なアルゴリズムの開発に成功
・121個の次世代有機EL材料の計算データから速度定数理論の詳細な解析を実現

概要

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の羽飼 雅也 博士前期課程学生、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)の柳井 毅 教授、藤本 和宏 特任准教授、国立大学法人 九州大学高等研究院の安田 琢麿 教授らの研究チームは、次世代有機EL発光材料の発光効率を増幅する新しい量子機構の理論的発見に成功しました。
 有機ELにおいて電気的に励起された発光分子は、25%の励起一重項状態と75%の励起三重項状態を形成します。非発光性の励起三重項の蓄積は発光量子効率低下の原因となるため、スピン反転注1)によりこれを励起一重項へと変換して発光させる熱活性化遅延蛍光(TADF)機構注2)が注目を浴びています。TADF機構は100%に迫る高い内部量子効率注3)を実現できる一方、スピン反転の効率が低いという課題があり、これを克服するための新たな分子設計理論の確立が待たれています。
 本研究では、TADFの律速過程であるスピン反転を飛躍的に高速化する新しい量子機構を発見しました。この量子機構では、分子の振動が誘発するスピン反転効果と、高次の励起三重項状態を用いるスピン反転効果とが協調し合うことでスピン反転が飛躍的に高速化します。この機構に基づく新理論を導き出し、従来理論での見積もりと比べて約1000倍以上のスピン反転速度をもたらす加速効果を生み出すことをシミュレーションから発見することに成功しました。有機EL発光材料の開発は既存の理論に縛られていますが、今後の研究により、本手法が明らかにした新原理に基づく高性能な有機EL発光材料の創出が期待されます。
 本研究成果は、2024年2月1日午前4時(日本時間)付アメリカ科学振興協会「Science Advances」でオンライン公開されました。

用語解説

注1)スピン反転:励起三重項状態から励起一重項状態へ状態遷移する量子的過程。逆項間交差(RISC)とも呼ばれる。電子のスピンには2種類(↑と↓)ある。スピン反転過程とは二電子のスピンの構成が、↑↑(励起三重項)から↑↓(励起一重項)へと変化する描像として理解される。励起一重項状態と励起三重項状態の間で働くスピン軌道相互作用によってこのスピン反転変換は起こる。
注2)熱活性化遅延蛍光(TADF)機構:熱的効果により、励起三重項状態が励起一重項状態へとスピン状態遷移を起こす分子機構。励起三重項状態を介して励起一重項状態から時間遅延を伴って発光するものは熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence:TADF)と呼ばれる。TADFを利用することで、有機ELの内部量子効率を100%まで高めることが可能となる。
注3)内部量子効率:発光素子(有機EL)や光電変換素子において用いられる効率を表す指標の1つ。素子内部に注入された電子数と形成された光量子数の比で表される。有機ELにおいては、内部量子効率の理論限界は一般的に、蛍光素子の場合~25%、りん光素子やTADF素子の場合~100%とされている。
※【WPI-ITbM について】(https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012 年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の 1 つとして採択されました。
ITbM では、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで 10 年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPI アカデミー」のメンバーに認定されました。

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詳細はプレスリリースをご参照ください。

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