海洋内部の巨大な水塊が台風に影響

〜海洋内部の巨大な水塊が台風に影響〜

ポイント

・日本の南の海の深さ100~500mに広く分布する水塊「亜熱帯モード水」の厚さの増減が、海面付近の水温を通じて台風の発達・減衰に影響していることを発見しました。
・この水塊の厚さの増減は、海洋表層の生物生産にも影響していることが期待されます。
・将来変化としてこの水塊の縮小が予測されており、上記の結果から、地球温暖化に伴う海面水温上昇、台風強化、海洋貧栄養化、生物生産減少がさらに強化されることが示唆されます。

概要

 東京大学の岡英太郎准教授、東北大学の杉本周作准教授、東京海洋大学の小橋史明教授らの研究グループは、北太平洋亜熱帯域の深さ100~500mに広く分布する水温均一な水塊「亜熱帯モード水」が、厚くなるほど海洋表層の水温構造を押し上げる効果(「持ち上げ効果」)を通じて海面付近を冷やし、さらには台風を弱めること、また逆に、薄くなるほど台風を強めることを明らかにしました。
 過去20年間、中緯度の海洋が大気に能動的に影響しているという観測事実が数多く示されてきましたが、その多くは黒潮など幅の狭い「海流」による影響でした。今回の研究結果は、東西5000km、南北1500kmという広がりを持つ「水塊」もまた、大気に影響を与えることを示しています。また、亜熱帯モード水は同じ「持ち上げ効果」により、海洋表層への栄養塩供給に影響し、貧栄養な亜熱帯域の生物生産に影響していると期待されます。さらに、水温均一な「モード水」は世界中の中緯度海洋に分布しており、幅広い波及効果が期待されます。
 北太平洋の亜熱帯モード水は地球温暖化に伴い過去60年間で6%縮小し、今後さらに縮小していくと予測されています。この縮小は「持ち上げ効果」の弱化を通じて、温暖化に伴う海面水温上昇、台風強化、海洋貧栄養化、生物生産減少をさらに強化することが示唆されます。

用語解説

注1)プロトン伝導性酸化物
材料内部で水素の陽イオンであるプロトン(H⁺)が伝導可能な酸化物。
注2)ペロブスカイト型
結晶構造(原子の規則的な並び方)の一つで、ABO₃の化学式を持つ。AとBは異なる種類の陽イオンである。図2左に例としてジルコン酸バリウムBaZrO₃(A=Ba; B=Zr)を示している。Bイオンが6つのOと強固に結合し、BO₆八面体を形成する。このBO₆八面体がOを共有することでネットワークを作り、その隙間をAイオンが埋めている。酸化物の代表的な結晶構造の一つであり、様々な機能を持つ化合物が報告されている。
注3)ハイスループット計算
計算技術により大量のデータを獲得する計算手法のこと。本研究ではスーパーコンピュータと自動化プログラムを活用して、様々な酸化物の機能と合成しやすさに関するデータを取得した。
注4)固体酸化物形燃料電池
酸化物を固体電解質(注8)として用いた燃料電池(SOFC: Solid Oxide Fuel Cell)。水素等の燃料と酸素によって生じる化学エネルギーを高効率に電気に変換可能な電気化学(発電)デバイスである。
注5)水素社会
水の電気分解による水素生成、水素の輸送や貯蔵、燃料電池等を用いた水素による発電など、水素を軸とした技術を通じて、カーボンニュートラルの実現を目指す社会のこと。
注6)アクセプター元素(ドーパント)
あるホスト化合物に含まれる陽イオンよりも、価数の低い陽イオンとなる元素のこと。例えば、Bi³⁺に対するPb²⁺のことを言う。アクセプター元素を添加すると、電気的中性を保つために酸化物イオン(O²⁻)が欠損した空孔が形成される。この酸化物イオン空孔の場所に水蒸気(H₂O)が入り込み、分解することによって、酸化物中にプロトン(H⁺)が導入される。
注7)シレナイト型
結晶構造の一つで、A12BO20の化学式を持つ。図2中にBi12SiO20(A=Bi; B=Si)を示している。Biの特殊な結合性によって生じる珍しい結晶構造である。その構造のほとんどを、Aが5つのOと結合したAO₅多面体が占め、その隙間を強固に結合したBO₄四面体が埋めている。この構造を有するプロトン伝導体は全く知られていなかったが、本研究により初めてそのプロトン伝導性が発見された。
注8)固体電解質
材料内部でイオンが伝導可能な固体物質。金属や半導体では電子が移動することによって電流が
生じるが、固体電解質では電荷を持ったイオンが移動することで電流が生じる。プロトン伝導性固体電解質では1価のプロトン(H⁺)が移動する。電子よりもイオンが移動しやすくなければ、固体電解質としては利用できない。

詳細

詳細はプレスリリースをご参照ください。

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