~九大水産実験所に避難、人工授精で増やした魚を試験放流~
九州大学大学院農学研究院の鬼倉徳雄教授は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に基づく国内希少野生動植物種に指定される淡水魚「セボシタビラ」を飼育下で増殖し、2023年8月18日にその一部を自然河川に試験放流します。放流個体は、平成29年(2017年)7月九州北部豪雨の被災河川に生息した個体の子どもたちです。豪雨災害による絶滅を免れたものの、その後の大規模河川改修での絶滅が危惧されたため、数個体を捕獲して九州大学水産実験所に緊急的に避難させ、人工授精での増殖を行いました。
セボシタビラはタナゴの仲間で、自然下では生きた二枚貝に卵を産みます。そのため、産卵母貝は、本学大学院工学研究院の林 博徳准教授、福岡県保健環境研究所の中島 淳専門研究員の助言を受けながら、福岡県朝倉県土整備事務所が近隣河川に避難させました。2022年3月と12月、先行して二枚貝が放流され、本年8月18日、選定された放流場所に本種約50尾を試験放流します。7月に鬼倉教授・林准教授・中島専門研究員、福岡県の河川部局、福岡県自然環境課、環境省九州地方環境事務所が集まり勉強会を開催、その会の中で福岡県が行った環境調査の結果が報告され、それを参考に放流場所を選定しました。放流は日本魚類学会の定める「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」に沿って行われます。
今後は、鬼倉教授とWWFジャパンの共同研究で開発された、セボシタビラの種特異的環境DNA分析法でモニタリングし、その結果に基づき、個体の補強の必要性を検討します。また、林准教授を中心に生息場を調査し、環境再生の必要性を検討する予定です。大災害~河川改修~希少種の緊急避難~野生復帰というプロセスを研究者と行政が連携しながら進めた点で、保全生態学的に大きな価値があります。成果の一部は、2023年9月の日本魚類学会年会で発表する予定です。
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