〜肥満から進⾏する肝硬変・肝がんの新たな予防法・治療法開発に期待〜
ポイント
・肥満を契機に⾮アルコール性脂肪性肝疾患/脂肪肝炎(NAFLD/NASH)を発症し、肝硬変や肝がんへと進⾏する患者が世界的に急増している。
・本研究では、NAFLD/NASH の病態進⾏に関わる因⼦を新たに特定することに成功した。
・栄養シグナルをターゲットにしたNAFLD/NASH に対する新たな治療開発が期待される。
概要
近年、肥満に伴う肝臓への過剰な脂肪蓄積を引き⾦として、メタボリックシンドローム(※1)の症状の⼀つである⾮アルコール性脂肪性肝疾患/脂肪肝炎(NAFLD/NASH)(※2)を発症する患者が世界的に急増しています。NAFLD/NASH は病態が進⾏すると肝臓の炎症や線維化を招き、やがて肝硬変や肝がんといった命に関わる病気を引き起こす特徴があり、医学的に⼤きな問題となっています。
九州⼤学⽣体防御医学研究所の中⼭ 敬⼀ 主幹教授、藤沼 駿 研究員、中津海 洋⼀ 研究員(現名古屋市⽴⼤学・准教授)らの研究グループは、FOXK1(※3)というタンパク質が栄養シグナルを介して肝臓の脂質代謝を制御し、NAFLD/NASH の病態を促進していることを新たに発⾒しました。
研究グループは肝臓特異的にFOXK1 を⽋失したマウスにNASH を誘導する⾼脂肪餌を与え、肝臓の炎症や線維化、さらに引き続いて起こる肝発がんが抑制され、疾患予後が改善することを⽰しました。このマウスに通常餌を与えても特に副作⽤などは観察されず、NAFLD/NASH の抑制は過剰に肝臓脂肪が蓄積した場合のみ起こることが分かりました。さらに、アデノ随伴ウイルス(AAV)(※4)を使⽤した遺伝⼦治療により肝臓のFOXK1 の発現量を低下させると、同様にNAFLD/NASHの病状を抑制することができました。
今回の発⾒は、FOXK1 が栄養シグナル下流で働く新しい肝脂質代謝の制御因⼦として働いていることを⾒出し、将来的に未だ有効な治療⼿段に乏しいNAFLD/NASH に対する副作⽤の少ない有望な治療標的になることが期待されます。
本研究成果は⽶国の雑誌「Cell Reports」に2023 年5 ⽉18 ⽇に掲載されました。
用語解説
(※1) メタボリックシンドローム:肥満に伴う⾼インスリン⾎症を原因とした全⾝代謝疾患で、⾼⾎糖・⾼⾎圧・脂質異常症などの症状から動脈硬化性疾患やがんを引き起こします。
(※2) ⾮アルコール性脂肪性肝疾患/脂肪肝炎(NAFLD/NASH):肝臓に脂肪が蓄積し肝障害の原因となる疾患で、肥満や糖尿病と強く関連しており、世界⼈⼝の25%がNAFLD であると⾔われています。病気が進⾏すると肝硬変や肝がんなど命に関わる合併症を引き起こします。
(※3) 転写因⼦FOXK1:転写因⼦とはDNA に結合し遺伝⼦発現を調節するタンパク質群の総称です。FOXK1 はフォークヘッドボックスと呼ばれるDNA 結合領域をもつ転写因⼦ファミリーの⼀つです。
(※4) アデノ随伴ウイルス(AAV):病原性の少ないウイルスベクターの⼀つで、⽣体内のさまざまな細胞にゲノムを送達することができることから、近年多くの臨床試験などで盛んに利⽤されている遺伝⼦治療⼿段の⼀つです。
詳細
詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。