市街地に隣接する河川・農業⽤⽔路における⽣息環境の保全に向けて
ポイント
・夜間の人工光による生態への影響(光害)は、世界中の動植物において問題となっている。
・水辺の人工照明によって、日没直後のウナギの摂餌活性が低下することを発見した。
・ウナギをはじめとした河川・農業用水路に生息する生物の保全に役立つと期待される。
概要
九州⼤学⼤学院農学研究院の松重⼀輝助教と北九州市⽴⾃然史・歴史博物館の⽇⽐野友亮学芸員の研究チームは、水産重要種かつ絶滅危惧種であるニホンウナギ(以下、ウナギ)について、水辺の人工照明が日没直後における本種の摂餌活性の上昇を妨げることを発見しました。
夜間の人工光は世界的に増加しており、野生生物への影響が懸念されています。ウナギは夜行性で暗い環境を好みますが、市街地の河川・農業用水路にも数多く生息します。これらの生息地では、人工光による摂餌活性の低下が危惧されますが、詳細は不明でした。本研究では、日比野学芸員が15~16年前に計17地点で実施した趣味のウナギ釣り(計49回)におけるウナギ124個体の釣果記録を統計的に解析し、水辺に強い人工照明がある地点とない地点で、釣獲頻度が高い時間帯を比較しました。ウナギは通常、日没直後に活発に摂餌します。人工照明のない地点では通常通り、頻繁にウナギが釣獲されたのは日没から約2時間後まででした。一方、水辺に人工照明がある地点では消灯後までウナギは釣れず、通常とは反対に遅い時間帯ほど釣獲頻度が上昇する傾向がありました。例外的に、複数のウナギ筒(筒に隠れたウナギを捕獲する罠)が設置された2地点では、日没からの経過時間や照明の点灯時間帯に関わらず、ウナギが釣れました。以上のことから、ウナギの摂餌活性には好適な隠れ家の存在も関係しており、隠れ家の減少や人工光の時空間的な拡大が本種の摂餌活性を下げることが示唆されました。
ウナギの摂餌行動は、餌となる多くの動物と密接に関係するはずです。本研究は、社会的に注目度が高いウナギを糸口に、水圏生態系への光害の関心を高める役割が期待されます。本研究成果は、国際学術誌「Environmental Biology of Fishes」に2023年7月10日(月)に掲載されました。
詳細
詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。